Ogura Manabu

北米中心にシェールオイル技術を有する企業と中東諸国とのオイル覇権をめぐる争いが過熱している。

原油価格は1バレル50米ドル前後と昨年年初の100ドル前後から考えるとおよそ半分となっている。単純に消費者としては原油価格の下落は喜ばしいことだ。また航空会社や運輸会社などオイル価格が経営に大きなインパクトを与える会社ではなおさら歓喜しているに違いない。

この石油価格の下落は一時的なものなのか、それとも恒常的なものなのかは最後に述べるとして即時性のニュースだけでは十分に語られない、伝わらない問題を3つ取り上げてみたい。

 

1. シェールオイル企業と産油国では原油価格下落の意味が異なる

 

シェール技術は地下深くの岩盤層に埋まっている石油を、岩盤を破砕しながら採掘する技術で、昔からある。このシェール技術がクローズアップされ始めたのは、ここ最近の技術革新で1バレルあたりの採掘コストがどんどんと安くなっているからだ。シェールオイル企業にとっては単純にいえば 石油価格 - 採掘コスト = 利益 となるので採掘コストが安ければ安いほど採掘会社は儲かることになる。

シェールオイルの採掘コストが統計的に明らかになっているわけではないが、1バレルあたり40-80米ドルくらいだと言われている。もし石油価格がそれ以上であれば企業は儲かるし、それ以下であれば赤字だ。一方で、産油国、たとえ世界最大の産油国であるサウジアラビアなども、石油採掘それ自体で考えれば上記の式が当てはまる。すなわちオイルの売値から採掘コストを引いたものが利益となる。

しかし中東の国々は石油利権により得た大きな利益を国家財政にまわしている。無料の教育費や医療費をオイルを外国に売って稼いだオカネから捻出しているのだ。すなわち中東の産油国は、国自体としてみれば

石油価格 - 採掘コスト - 国家の財政支出 = 利益(財政黒字)

となる。産油国の採掘コストはシェールオイル企業のそれと比べて格段に安く、1バレルあたり10-20米ドルと言われている。この数字を素直に受け取って”産油国は10-20米ドルで採掘したものを売るのだから、55米ドルでも十分にモトがとれる。なのでシェールオイル企業とは勝負にならない”と考えてはいけない。

サウジアラビアの場合、国家財政が均衡するラインは1バレルあたり97米ドルと言われている。すなわち97米ドル以上でオイルが売れなければ国家レベルで財政赤字だ。ちなみにもしこの価格が続けば、サウジアラビアは2018年に国庫がスッカラカンになると言う。 産油国にとってはこの”国家財政を均衡させる”ということが重要で、原油採掘コストには国家を運営するコストも大部分含まれているのである。

それに中東の産油国には民主主義がなく、一部王族=超弩級お金持ちが国を支配しているため少数民族がたびたび反乱を起こし、その都度カネの力でねじ伏せてきた。すなわち潤沢にオカネがあるということは中東の王族支配を継続するための必要条件であり、石油価格がこの"財政均衡ライン”を割るということは王族支配が揺らぐ可能性をもはらむ。

シェールオイル企業にとっては石油価格の下落は単純に「儲からなくなる、赤字になる」そして最悪「破産する」といった程度のものだが中東の産油国にとっての石油価格の下落は「自分たちの支配が脅かされる可能性がある」ということだ。

さらに、シェールオイルが主役になってしまえば、仮に中東が不安定化したとしてもアメリカが仲介に入るインセンティブがない。シェールオイルの初期採掘コストは平均2億円程度と言われており、もし石油価格が高騰しそうな気配があればすぐにシェール油田を掘ればいいだけだ。 アメリカはこれまで膨大な軍事費をつかって石油価格の安定化を推進してきたが、OPECが握っていた石油価格の動向を市場が握ることになる。もともと英米の石油メジャーに対抗して作られたOPECだが今後は無数にあらわれる中小のシェールオイル企業、そして採掘技術の発達と戦わねばならないことになる。

一方、ロシアやベネズエラなど旧世代のコストの高い採掘技術しか持っておらず、かつ国庫にキャッシュが潤沢でない国はこの価格が続けばデフォルトの危機に見舞われる。オイルもガスもシェールに取られてしまっては、"新興国の旺盛な需要があるから大丈夫”と高をくくっていた国には相当高い代償となるだろう。

 

2. ヨーロッパや日本で金融政策の練り直しが迫られる

 

石油は単にエネルギーとして利用されるだけではなく、プラスチックやゴムなど原材料としても利用されている。石油価格の下落はこれらすべての価格を押し下げる効果があるのでこれだけ石油価格が下落するとヨーロッパや日本など低インフレ国はデフレに陥る可能性がある。

特に日本は”オカネを刷りさえすればなんとかなる!!”というリフレ派が2012年に発足した第二次安倍内閣から勢いがあった。アメリカはオカネをバンバン刷りまくって景気が回復したのだから、原因(オカネを刷ること)と結果(景気が回復したこと)の因果関係が薄弱だとしてもそれとパラレルで考えるのは納得できたし、日銀の黒田総裁はまさにデフレを退治しインフレ期待を起こさせることに向けて邁進してきた。

結果、物価が上昇して企業の賃金もそれに伴い名目上は上昇したので「もしかして日本も遅ればせながら景気が戻ってきているのかな?」と思わせる素地はあったにもかかわらず、石油価格がこれほどまでに下落することまではさすがに想定外だっただろう。これでまた物価が下落しついでに賃金までもが下落するようなことがあれば疑り深い日本人のこと、「ほらやっぱり景気回復なんて無理だったんだ」と元の木阿弥である。

日本もデフレ経済がずっと続いたせいで消費行動も大きく変化した。この頑固なデフレマインドを補正し、もう二度とデフレマインドによる経済収縮を起こさせまいとする中央銀行のこれまでの努力が泡沫に帰すおそれがある。ただ、ここまで来れば今さら「リフレ路線をやめる」などとは言えない。これまでの”異次元の緩和政策”を更に異次元にするのか、あるいは何か別の方法があるのか。金融政策を仕切る中央銀行は大変に難しい舵取りを迫られることになる。 

そして同じ状態になるのがヨーロッパ。ギリシャの債務問題が再びクローズアップされることで、人々の財布の紐はますます固くなっている。次に来る"悪い事件"に備えて人々は貯蓄を増やす。これまでの"ゆるやかな成長、ゆるやかなインフレ路線"を前提とした金融政策を再考する必要に迫られる。

 

3. 2015年のオイル価格予想

 

産油国の財政均衡ラインを割るということは、産油国を弱体化させアメリカの覇権を強めることになる。またデフレに陥ってしまいそうな低インフレ国の中央銀行は急いでデフレ回避をする必要がある。世界のポリティカル・バランスを変えてしまい、中央銀行に緊縮路線変更を迫るくらいの”事件"であるにもかかわらず、世間の関心は来年の原油価格にはあんまり向かっていないようだ。

ウォール街のアナリスト30人の予想によると、予想価格は通年で

2015年 1バレル74米ドル

2016年 1バレル80.3米ドル

だそうだ。したがってベースライン(もっともありえそうなシナリオ)は今後2年間は1バレル80ドルくらいと考えておけばいいだろう。もちろん、これは予想であるから何かのキッカケで1バレル150米ドルを超えないとも限らない。そしてまた、大方の予想を裏切って価格が30ドル台で低迷する可能性もある。

1.で述べたように、中東諸国が自国内の福祉や教育を犠牲にし、正常不安定になったとしてもシェールオイルを抹殺する意思が固いのであれば、下落は一時的なトレンドではなく長期的に続く見込みだ。 2015年の経済は”オイル価格の下落の影響で...”という枕詞で語られる機会が非常に多くなりそうだ。


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