日本人チーム

 日本で色々と話題になる「年金」。この年金に関して問題になっているのは日本だけではなく、先進国では似通った問題を抱えています。たとえばフランスでも減少していく若年層が高年層を支えるという人口動態の変化により、年金の支給は現在支払っている積立金の増額だったり、増税によって支えられています。さらに受給資格も60歳から62歳へ伸ばす法案が可決される見込みのようです。

 先進国がそんな問題を抱える中、2000年に香港でもMPFという年金制度が設立されました。アメリカの401kという年金制度を参考にして作られています。そのMPFが、香港人の老後の生活を十分保証できるほど資産を形成することが出来るかどうかを検証してみました。

 

◯MPFとは?

 MPFとはMandatory Provident Fundの略で、日本語にすると「香港強制積立基金」となります。日本語訳のインパクトが中々強いですが、その名の通りお給料から強制的に積立を行う基金のことです。

 積み立て額は給料の10%で、会社と従業員が5%づつ負担して、信託会社(Trustee)に積み立てますが、任意で積立額を増やすことも出来ます。また対象額の上限はHKD30,000までなので、それ以上の給料をもらっていたとしてもHKD1,500以上は自動的に引かれることはありません。

 この年金制度であるMPFの信託会社はHSBCやAIAを含めた21社ありますが、どこの信託会社で運用するかは雇用主が決定します。しかし、積立金をどのファンドで運用するかは従業員が自分の責任で選択しなければいけません。例えば信託会社がHSBCであれば、HSBCが選んでいる31個のファンドから自分で選択しなければいけません。そして運用途中で選択したファンドを売って、新しいファンドを選択することもできます。

 満期を迎えた時にファンドの成績が良ければ払い戻されるお金は多くなるし、悪ければ少なくなります。また満期を含めたお金を引き出すことができる条件とは、

 

・65歳になったら

・早期退職したら

・死亡したら

・香港から永久退去したら

・勤務できない状態になったら

・積み立て残高が少なくなったら
⇒過去1年間に積立がなく、過去の合計積立残高がHKD5,000未満で将来香港での就業予定がない人

 

の場合のみです。

 また転職などで信託会社が変わってしまった場合は、別々に運用することも可能ですが、新しい信託会社にこれまでの積立金を移管することも可能です。要するに自己責任で運用しなければいけない年金制度なのです。日本でいう確定拠出年金のようなものです。

MPFについてまとめると以下のようになります。

香港強制積立基金(MPF)

設立年: 2000年
対象者: 18歳から65歳までのフルタイム、パートタイムの従業員
積立額: 給与の10%(5%づつ雇用主と従業員で負担)
上限は月額HKD2,500まで
課税: なし
手数料: 純資産価値に対して平均0.9%~2.4%
(信託会社によって異なる)※
引き出し可能年齢: 65歳
香港平均寿命: 81.86歳


※ちなみにアメリカの401k[確定拠出年金制度]は0.25%~1%かかる

 

◯香港ではMPF(年金)だけで老後を送ることが出来るのか?

まず、基本的な考え方として、MPFだけで老後を送ることが出来るかどうかの判断は下記の計算式が成立するかどうか、という事になります。
 

MPFからのリターン > 香港の生活費(将来インフレ率考慮) × 老後の残り平均寿命

 

これからの文章を読み進めていく上でこの事を記憶に留めておいて下さい。

 

ipac社による予測

ファイナンシャル・プランニング会社であるipac Financial Planning Hong Kong Ltd.は、

仮にMPFの最高額(HKD2,500/月)を20歳から65歳まで毎月積み立て続けたとしても、65歳からの受取開始からおよそ9年程度の生活費にしか満たない。

と指摘しています。

 65歳から9年後であれば74歳までということですが、香港の平均寿命は81.86歳です。つまり残り7.86年分が足りないという計算になります。ipac社の指摘のように、MPFだけでは十分な老後の生活費にはならないのでしょうか。

 

MPFのリターンはどのくらい?

 MPF制度を管理するMPFA(強制性公積金計割管理局)は、MPFが設立された2000年から2010年までの10年間の平均年間リターンは5.5%(手数料引き後)だと発表しました。

 この成績はMPFで取り扱っている全ての信託会社のファンドの成績を平均値化した数字なので、実際に香港市民が得たリターンの平均値というわけではありません。

 

インフレーション(物価上昇率)とリターンの関係

 MPFのリターンが良い悪いの話の前に、インフレ率(物価上昇率)と運用リターンとの関係について話さなければいけません。なぜなら、物価が上昇するということはお金の価値が下がってしまうということだからです。

 たとえばその年の物価上昇率が5%であった場合、1本100円のジュースは1年後に105円になるので、今100円で購入できているジュースは1年後買うことができなくなります。100円で購入した株式のリターンが3%/年であれば、1年後に売却すると103円になります。3%リターンは出ていますが105円のジュースには2円足りておらず、ジュース1本の価値ではなくなってしまいました。

 いくら大きくリターンが出ていたとしても、インフレ率を下回っていると実質的な資産価値は下がっているといえるのです。

インフレとモノの価値についての詳しい解説はこちらのスライドも参照ください。
経済サイクルを理解するための5つの公式
 

2010年までの香港のインフレ率(物価上昇率)はどうだったか

 では、2000年から2010年の間に香港ではどれほど物価が上昇していたのでしょうか?

 同じくMPFAの発表によると2000年~2010年の10年間の物価上昇率は平均で年間0.7%ほどだったそうです。つまり上述したMPFで取り扱っている全ファンド10年間の実質的な平均リターンは4.8%だったということになり、実質的な資産価値も上昇しています。

 物価推移の内訳を見てみると2000年から2004年はデフレーション、つまり物価が下がっていましたが、2005年から徐々に上昇しています。2010年以降の香港の物価上昇率はさらに上昇し、2011年で5.28%のピークを迎え、2012年は4.07%、2013年が4.33%となっています。

20歳から65歳までMPFに対して支払い続けた場合、どの程度まで増えているか?

 さてipac社は20歳から65歳までの45年間HKD2,500/月を払い続けたとしても、65歳から74歳までの9年分にしか満たないと指摘しています。どのような計算でそのような結果が出たか不明なので、過去のインフレ率とMPFのリターンを元にシミュレーションをしてみたいと思います。

 

<条件>

積立開始年: 2000年
積立期間: 20歳-65歳(45年間)
積立額 HKD2,500/月
想定年間リターン: ・MPFの10年間の平均リターンである5.5%/年
・それよりも悪かった場合として2%/年
・それよりも良かった場合として8%/年

 

の3パターンで計算すると、満期の際45年間積み立てたMPFの払戻金額は、

想定リターン2%: HKD2,180,075
想定リターン5.5%: HKD5,686,785
想定リターン8%: HKD12,091,718

 

となります。

 

香港の老後の生活費とインフレ

 Mass Mutual社が2009年に発表した、1世帯における老後の生活費の平均はHKD9,851/月でした。

 2000年から2010年までの平均物価上昇率は0.7%だったので、発表された2009年から2045年の間にこの上昇率で生活費が上昇したと仮定して計算してみると、2045年の老後にかかる生活費はHKD12,663/月となります。

 しかし、先程もお話しした通りこの直近3年間で物価上昇率は上昇傾向にあります。なので年間0.7%の想定物価上昇率は少し低すぎるかもしれません。そこで、物価上昇率を平均で年3%の場合も検討してみたいと思います。その場合だと、2045年の生活費の平均額はHKD28,551/月となります。

インフレ率0.7%: 老後にかかる生活費HKD12,663/月
インフレ率3%: 老後にかかる生活費HKD28,551/月

 

香港の平均寿命は約82歳

 65歳でリタイアし平均寿命の82歳まで存命した場合は、18年間の生活費が必要となります。便宜上この18年間は物価上昇がないとした場合、上述の0.7%と3%の物価上昇率で計算された老後の生活費の18年分の合計はそれぞれ、

 

インフレ率0.7%: 老後にかかる生活費合計HKD2,735,208
インフレ率3%: 老後にかかる生活費合計HKD6,167,016

 

となります。

 

★結論

 

 MPFの平均リターン5.5%の場合、0.7%の物価上昇率であれば十分賄えますが、3%だと不足してしまいます。またリターンが2%であればどちらの物価上昇率の場合の生活費には不足してしまいますし、逆に8%もリターンが出てしまえばそのどちらも十分賄うことが可能です。

 以上の仮定を踏まえ、一番現実的なMPFだけで65歳から82歳までの生活費を賄える条件は、

 

・45年間HKD2,500/月積み立て続け、

・年間の平均リターンが5.5%程度

・物価上昇率が2%程度

 

であれば、なんとか工面できそうです。

 しかし、この老後の生活費には家賃が考慮されていません。なので持ち家がなく家族とも同居しない場合は、上記の条件であったとしてもMPFだけで老後の生活費を賄うことはできません。

※参考リンク
MPFA(強制性公積金計割管理局)
TRUSTNET HONG KONG(各信託会社やファンドのランキングが見れます。)
・MPF Schemes Authority, Central Provident Fund Board, World Bank, Mercer, ipac Financial Planning

 

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