Hiroaki Tsuda

 日本国弁護士の津田宏明と申します。
前回から時間が経ってしまいましたが、
2015129日の「香港にある資産の相続について〜法律コラム〜」の続編です。
 
 前回、香港に銀行口座等の資産を残して亡くなった場合に、相続人の方がこれらを引き継ぐには香港の法律に従った手続きを行う必要があることについてお話しいたしました。
今回は、香港において具体的にどのような手続きを行うことになるのかについてお話したいと思います。
 
 例えば、以下のケースを想定してみましょう。

 
・亡くなった夫(70歳)の遺品を整理していたら、香港の銀行からのレターが見つかった。夫は香港の銀行口座を持っており、30万香港ドル程度の残高があるようだ。
 
・夫は、日本国籍で、日本に居住しており日本で亡くなった。
 
・遺言書は残されていない。
 
・相続人は、日本の法律によれば、妻(65歳)と息子(35歳)の2名である。
 

 前回もお話したとおり、日本の銀行であれば、戸籍謄本等と相続人の印鑑があれば、夫名義の銀行口座にあるお金を引き出すことができます。しかし、香港の銀行においては香港の法律に従った手続きが必要になるので、口座名義人ではない人が、日本の戸籍謄本等を示して相続人だからといっても香港の銀行は預金の引き出しや解約には応じてくれません。
 
 香港において資産を相続するには、まずは香港の裁判所に対して「遺産管理状」(Letters of Administrationの付与を申請し、「遺産管理状」が付与された後に香港の銀行に提示して預金の引き出しや解約を行うことになります。
(なお、亡くなった方が法定の要件を満たした「遺言書」(Will)を残していた場合は、「遺言書の検認」(Probate)という別の手続きを行うことになります。)
 
「遺産管理状」の付与申請とは、上記の例でいうと、妻を「遺産管理人」(Administrator)として認め、「遺産管理人」に対し、夫の(香港に存在する)財産を管理・処分する権限を付与することを裁判所に対して求める手続きをいいます。
 
この「遺産管理状」の付与申請は、上記の例でいうと、以下の手順で行うことになります。
 
1.戸籍謄本の取得とアポスティーユ認証
 本籍地の役所から、夫の戸籍(除籍)謄本を取得し、外務省で「アポスティーユ認証(※)」を受ける。
※日本の公的証明文書が、権限を有する役所によって発行された真正なものであることを外務省が認証するものです。日本及び香港を含めた条約加盟国間で通用する方式です。


2.死亡届記載事項証明書の取得とアポスティーユ認証
 夫の住所地を管轄する法務局から、「死亡届記載事項証明書」を取得し、外務省で「アポスティーユ認証」を受ける。


3.戸籍謄本等の英文訳作成とそれらの認証
 戸籍謄本と死亡届記載事項証明書の英文訳を作成し、英文訳に翻訳者が署名をして、公証役場で署名認証を受ける。(役所によっては、英文訳を持ち込むと、役所が内容確認の上、役所が英訳証明書を発行してくれる場合もあります。その場合は公証役場での署名認証は不要で、上記1と同様に「アポスティーユ認証」を経ることになります。)  


4.香港の裁判所への申請書類の作成と、公証人の前での署名
 香港の裁判所に提出する遺産管理状付与申請書、宣誓供述書(相続人関係や、上記の例でいうと妻が遺産管理人となる資格を持つこと、その他相続に関わる事実関係を記載したもの。)、及び亡くなった方が香港に保有する資産の一覧表等を作成し(これらの申請書類等は香港の弁護士が作成します。)、それぞれの書類に、遺産管理人となる妻が、公証人の面前で署名を行う。


5.日本法に基づく法律意見書の作成
 日本の法律によれば、誰が亡くなった方の相続人であるか、相続人がどのような権利を有するか、妻に対して遺産を管理する権限を与えるにあたっての支障があるか、等の事項について述べた法律意見書を作成する。(通常は、日本の弁護士資格を持つ者が作成します。)


6.香港の裁判所への遺産管理状付与申請
 以上の書類が完成次第、本人及び相続人のパスポートのコピー等とともに香港の弁護士に送付し、香港の弁護士から香港の裁判所に対して遺産管理状の付与申請を行う。


7.香港の裁判所による審査
 香港の裁判所において提出書類の審査を行う(この際、香港の裁判所から、特に日本の法律に基づく権利関係の確認や法律解釈について質問がなされることがあります。)


8.遺産管理状の付与と香港の銀行への提示
 香港の裁判所から遺産管理状が付与されたら、香港の銀行に提示し、遺産管理人(妻)の名で、夫の銀行口座の資金移動や解約等の手続きを行う。
 
 
 前回のコラムで、香港の資産の相続手続きには、香港と日本の両方の法律が関係してくると説明いたしましたが、具体的には上記の通りです。
 
 つまり、香港の裁判所での申請手続きですので、香港の法律に従った申請書や必要書類を準備する必要があります。また、申請後も裁判所とのやり取りが必要になってくることが多いため、通常は香港の資格を持つ弁護士(ソリシター)に委託してこれらの手続きを行うことになります。
 
 一方で、日本国籍を持つ方の相続であるため、本人や相続人の身分関係を証明する書類はすべて日本の役所が発行する戸籍謄本等になります。もっとも、これらの証明文書も単に役所で取得したものを提出するのではなく、外務省での「アポスティーユ認証」を受ける必要がありますし、英訳を用意する必要もあります。
 
 また、香港での手続きではあるものの、日本国籍を有する方の相続の場合、相続人の権利関係は日本の法律に従って判断されます。従って、日本の法律によれば相続人の権利関係はどのように解釈されるのか、等について、香港の裁判所(及び香港の裁判所とやり取りをする香港の弁護士)に対して説明をしていく必要があります。
 
 このように、「香港の銀行口座の相続手続き」と一口に言っても、複雑な手続きを行う必要があります。香港の弁護士の関与は言うに及ばず、日本での手続きや法律意見書の作成も必要になるため、日本の弁護士等、日本法に精通した専門家の関与も必要になってきます。
 
 もちろん、上記でご紹介した手続きの流れは、上記の想定例を前提にしたものですので、場合によっては別の必要書類や手続きが必要になります。もし相続が発生し、香港での資産も相続する必要がある場合は、まずは専門家にご相談されることをお勧め致します。
 
 ちなみに、上記の手続きを経ることにより、亡くなった方の香港の銀行口座にあるお金を日本に送金することは可能となりますが、相続人が複数いらっしゃる場合は、その資金をどのように分配するべきか、という問題もあります。これは通常の日本国内の相続のケースと同様に、(遺言書が無い場合は)相続人間での遺産分割協議によって決めることになります。
 
 日本国内の資産の分配の場合と同様に、香港の資産の分割方法で紛争になることも当然あり得る話です。せっかく頑張って香港で資産を増やすことができたとしても、後の争いの種となってしまうのでは元も子もありません。
 
 香港に資産をお持ちの方は、その点も意識した上で、予め法定の要件に従った遺言書を用意しておく等の対策を行うことも検討されては如何でしょうか。

 

 AMGリーガルアドバイザー
 弁護士 津田 宏明
 熊谷・田中・津田法律事務所パートナー
 TEL: 03-3584-5986
 E-mail: hiroaki.tsuda@kttjapan.com
 WEB: http://www.kttjapan.com/

 

<プロフィール>
2002年10月弁護士登録(第一東京弁護士会)/2002年10月あさひ・狛法律事務所入所(現西村あさひ法律事務所)/2004年10月近藤丸人法律事務所入所(第二東京弁護士会に登録換)/2008年7月北京語言大学(漢語進修生)/2008年9月(~09年8月)香港中文大学ロースクール(LLM)卒業/2009年1月 Robertsons Solicitors(香港)勤務/2009年9月(~10年8月)上海市協力律師事務所・広東君信律師事務所勤務/2010年9月近藤丸人法律事務所復帰/2014年3月熊谷・田中・津田法律事務所に参画/2015年よりAMGリーガルアドバイザー

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主な取扱分野
渉外法務、倒産・事業再生、外国企業による対日投資、訴訟紛争、一般企業法務

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