Ogura Manabu

 

すべては2年前の春に始まりました。

アドミラルティのコンラッド・ホテルのボールルームで朝10時からとあるヘッジファンドのプレゼンテーションが行われていました。AMGの同僚と10時少し前くらいに300人は優に収容できそうな広いスペースに、入り口においてあるコーヒーカップを手に取り薄めのコーヒーを注ぎ、香港のセントラル界隈を闊歩する金融マン&ウーマンたちがぞろぞろと吸い込まれていきます。

僕も彼らと同じようにコーヒーをカップに注ぎ、席に着きました。ヘッジファンドのマネージャーが基調講演として今後の経済の見通しを語ります。10分ほどのお話の後、そのヘッジファンドのクオンツ(計量分析)のトップだという人がインフレとファンドのリターンとの関係を語り始めました。ブリティッシュ・アクセントの美しい英語を話すそのクオンツ氏は、こちらの前提知識や理解程度などお構いなく専門用語を散りばめます。

話についていけなくなって、ふと午後のスケジュールを考えていました。「あのお客様に電話をしないと」「あのニュースの続きはどうなったのかな」「今日の夕飯はなんだろな」と仕事からプライベートのことまで考えてしまっていました。時間にして5分くらいだったかと思います。

ふと我にかえると、クオンツ氏の話に大きく頷いている同僚が目に入りました。「おぉ。そんなにタップリと頷くことがあるのか。いい話なんだ。気を散らさないで気合を入れなおしてちゃんと聞こう」と決意しましたが、後の祭り。5分間に話されたことをきちんと頭に入れておかないとついていけない内容だったのか、脳みそを絞りながら聞いても大きな?マークが頭上に浮かびます。

結局クオンツ氏の講演が終わるころには私は、脳みそを使ってぐったりした上、"些細なことに気を散らしてしまって時間を無駄にしてしまった”と後悔している自分がおりました。しかしその後、オフィスに帰ると”今回のプレゼンテーションの内容”というメールが届いておりました。その内容は、講演で使ったパワーポイントと、講演を録画したオンラインビデオのリンクでした。

うっかり気を散らせてしまった僕の5分間は永遠に取り戻すことはできませんが、講演内容をところどころでストップしながらゆっくり確認することができ、専門用語などもネットで調べながら「フムフム、そういうことだったのか。なるほどなぁ、いいこと言うなぁ」と消化することができたのです。

ここで僕はフト気付いてしまったのです。

これと同じこと、アドバイザーにも同じことが言える…と。アドバイザーから話を聞く人は、別にライブで聞きたいわけではない。アドバイザーはアイドルではないので「同じ空気を吸ってる感」は必要ありません。分からないことが出てくれば、自分のペースで好きなタイミングで始められ止められ、ネットで調べたりできる方が学習効果はむしろずっと高い。

そして私たちがマントラとしている”長期投資”も、お会いして一度で説明しきれるものではないということを考えると私たちが考えていることをオンラインにしてしまえばお客様は資産運用についてより深い理解を得られるのではないか…

それから「半年くらいあれば完成するだろう」と気楽に考えていたウェブサイトは結局2年半の歳月を必要とすることとなりました。コンテンツ作成に一番気を遣ったのは、不要な情報をそぎ落としつつ内容のレベルは落とさないことです。クオンツ氏のように専門用語を駆使して「賢そうに見せる」ことは可能ですが、それでは単なる独白であって相手のあるコミュニケーションではありません。

全く資産運用の知識がない人でも受け取りやすい言葉を慎重に選び、コンテンツの内容を研ぎ澄ましていく作業を日々のアドバイザー業務と並行しながら続けるのは至難の業でした。事実、それが面倒になってしまって2,3ヶ月間このプロジェクトを放り出していたことも一度や二度ではありません。

「このプロジェクトが完成しなくとも、別に誰も損しないよね」
「他にやるべきこと、もっとあるんじゃない?」
「結局、思いついたことをやってみたいという自己満足」
「この程度のコンテンツをネットに晒すなんて本気か?」

という悪魔のささやきに反論しながら、また時にはAMGの他のアドバイザー

「小椋さん、もうすぐ完成すると言い続けて2年経ちましたけど、新しいウェブサイトってどうなりました?(別に期待してないですがw)」

という冷ややかなツッコミに耳を覆いながら、ゼェゼェと急斜面を歩いて行くような感覚で何とか公開できるレベルのところまで持ってこれました。AMGのアドバイザーからの膨大な聞き取り調査から始まり、コンプライアンス部門との折衝、ITの知識入れ、様々なウェブサービスの検証、香港のウェブベンダーとの噛みあわない会話、思想設計、3時間唸って2行しか進まなかったときの絶望感、デザインへのこだわり、噛みまくりで録音がほとんど進まない苛立ち… 過ぎ去ってみれば良い思い出です。

何とかして、資産運用のエッセンスを分かりやすく形にしてやろうという気持ちが自分を動かす原動力となりました。考えこむときはとくに、オフィス内にもかかわらずサンダル履きでブツブツ言いながら歩きまわっておりましたがそういった状態を許してくれた社長のアーノルド・ヤンに感謝です。また、一部のお客様にはコンテンツの内容について温かいご指導を頂きました。アカデミックな見地からの意見は大変参考になりました。この場を借りて深くお礼を申し上げます。

このリニューアルが終わりではなく、むしろスタート地点に立ったばかりだと身震いをしております。もしこのウェブサイトが、あなたの資産運用に役立つことがありましたらこれ以上の喜びはありません。

小椋 学

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